実況! 目黒通りグランプリ
ブラッキーが車検なんで、代車のヤマハ
ブロンコで家を後にした。空冷225ccの単気筒エンジンは、何事も無かった様にスタートし、何事も無かった様に軽々と吹け上がる。これだから国産車はたまらない。スロットル2回煽りとか、ガソリンコック開けて20秒とか、ピストンの位置合わせとか、坂まで押して、押しがけとか、そういう一連の朝の儀式が一切要らない。イグニッションキーをONの位置に回してスタータボタンに触れるだけ。何の不安も無く一発で目を覚ます。
「素晴らしいネ...」
思わず呟いてしまう。
ヤマハ ブロンコは、昔のスクランブラースタイルというか、ホラ、スティーブ マックイーンが良く乗ってそうなダートバイクを忠実に再現した感じの、いわゆるエクストリームモトクロス系の最近のオフローダーとは一線を画した、カワイイバイクである。乗る時は、Bellとか、Bucoとか、アメリカ製のジェットヘルメットにゴーグルかサングラス。デニムジャケットか長袖のT−シャツにストレートのジーンズで、気分はスティーブマックイーン状態で、「俺はバイクに乗ってるのが楽しくってしょうがない!!」的なさわやかな笑顔で決めてもらいたい。
いつものように軽やかに、山手通りの2車線を、右へ左へ邪魔なクルマの間を縫って南へ向かう。大鳥陸橋の交差点を左折して、目黒通りに入り、権の助坂の登り口の信号で止まった。とその時、背後でライバルメーカーHONDAの250cc単気筒のエンジン音が笑っている...ミラー越しに背後を覗うと、比較的近所にモデル級の美人の彼女(と聞いて居るが見た事はない)とヤサを構える同僚のゼッケン1番、食道君である。彼も僕のミラーに視線を合わせながらほくそえんでいる。
「来たナ...」
サングラスのレンズ越しに目配せで応える。かくしてグリッド整列完了。シグナルレッドから...「オフィシャル
コース
オフ!」のアナウンスと共に横断歩道の人々は足早に歩道に待避して、コース右側のフラッグポスト(通常は赤い「止まれ」旗しか出さない)では、制服に身を固めたコースマーシャルが腕を組んで状況を見守っている...僕たちはギアを1速に入れ、アクセルを開け、クラッチでタイミングを取りながらその時を待つ。半クラッチを当てる度にダートバイク特有の柔らか目のサスペンションが伸び縮みし、フロントブレーキに押さえられた車体は、行き場を失い神経質な上下動を繰り返す.....
「シグナル
グリーン!」
と同時に素早くクラッチを繋ぎ、スロットル全開。前屈みの姿勢をとっていないとトルクフルなエンジンがいとも簡単に前輪を放り上げてしまう。あとは詰っているクルマの隙間のスペースを素早く探しながら、マシンをコントロールする事に集中する。権の助坂のアップ・ヒル&ダウン・ヒルを一気にこなし、杉野講堂の前で第1区間が終了する。くれ〜じリード。但し、ここからの区間は比較的駐車車両も減り、道幅が安定しているので、自然教育園前の130度ベントのライン取りで前を押え、後はひたすらブロックし続けるしかない。こういう所での25ccの差は意外にデカイ。
大外から一気にマシンを倒し込み、リアを滑らせながら130度ベントを6速全開でクリアし、前を行く走るシケイン達をうまく利用しながら頭を押さえるのに成功した。
白金台の三叉路を過ぎてしまえば、片側2車線の中央のラインを走っていれば、不用意に前に出られる事は無い。白金台駅前の右折レーンの奪い合いで多少毎朝混乱が起るので、余計である。周りはみんなスピードを落としている。その合間へ2台のダートバイクは、毎朝アクセルコントロールだけで車速を調節しながら一気に突っ込んで行く。
と、タクシーの運チャンが、不意に左車線から寄せてくる。フルブレーキングでギリギリにこれをかわす。「コノヤロー、さっき強引に左へ移ったくせに、今度は右車線へ片輪だけ浮気して通路を確保しようなんざ、太てぇヤローだ...」
ぼくはこういうタクシーの運チャンが大嫌いである。運転で飯食ってるくせに、プロっぽく無くて、最高にカッコワルイ。オマケに事故ると会社の事故処理係をバックに開き直る。だから僕はタクシーとバイクの事故を目撃すると、会社に遅刻しても必ず実況検分に立会い、目撃証言をする事にしている。経験上、ほぼ100%に近い確立でタクシー側に非がある。たまに「オマエハカンケーナイダロー」とかムキになって怒る輩が居るが、「おめぇサンみたいなアホのせいで、オイラの仲間が何人死んだと思う?」...ここでは決して声を荒げてはイケナイ。チョット渋目に、悲し気な目で言ってやると、まぁヤマシイ経験の1コや2コは必ずあるんだろう、十中八九黙らせられる。
とりあえず他のクルマの行き場が無くなるので先を譲る。右折レーンで吐出量調整される為、続く下り坂は比較的ラインの自由度が高い。右車線の左側ギリギリに車体を寄せ、一気にフルスロットルで坂を下って行く。車体スレスレを追い抜き様に、左足を上げて、無茶しやがったタクシーを威嚇してやる...でも、後ろには気を付けてないと、いつ食道君に出し抜かれるか分かったもんじゃない...と、愛用のエンジニアブーツの先の、まるで誂えたように丁度の位置に、フェンダーミラーが現れた。「アレッ?!」と思ったその瞬間に、「カシャン」、ブーツの踵がフェンダーミラーをへし折っていた。
あまりの突然の出来事に、思わず吹き出しながら、「ほら、無謀運転の代償は高いのヨ」と窓越しに運チャンを諭しながら、ダウン・ヒルの先の高速右ベントへアプローチ。1速落してトラクションを十分に確保し、開けながら曲る。下って昇るラインだから、坂を下り切る前に一瞬の減速を済ませてフロントフォークを沈めておいて、リアに加重し、開けながら曲らないと強く曲れない。最悪コントロールを失う。オマケにその数十メートル先には信号がある。タイミング悪く赤だと、今度は全開で立ち上がった直後にフルブレーキングで停止しなければならない。ここは、見た目以上に難しい、このコースの中でも難所の1つである。
幸い信号は青。そのまんまの勢いで、R1を左折する。立ち上りのコース幅が広いので、早めにクリッピングに向けて倒し込み、向きが変ったら一気にフルスロットルをくれてやる。食道君曰く、ここできれーにリアが滑って気持ち良さそうに見えるんだそうナ...
すぐに白金1丁目を右折。魚藍坂下からストレートを全開。三田5、4と続くS字コーナー1個目をアクセル戻しただけでクリアすると、必ず2個目の右で信号に引っ掛かる。白金台駅前から築いてきた大量リードは大体ここでいつも無くなってしまう。三田4を立ち上がると、比較的急勾配の登りストレートだ。ここは文句無しに250ccの方に分がある。案の定、坂を登りきる前に、抜かれてしまった。たった25cc、されど25ccのパワー差を、突付けられる瞬間である。チクショウ!あと2つコーナーをクリアすると、もうゴールになってしまう。「食道選手逆転勝利!」の紙面が脳裏を過る。これまでか...
が、ここで諦めてはイケナイ...登りの次は...、そう、必ず下りがやってくるのである。(アタリマエダ!)
ひるむ事無くフルスロットルを当て続け、三田2の三叉路、左コーナーへのアプローチで、ブレーキングをギリギリまでガマンする。車体1台分前に出たところで一気にアウト側からタック・イン。鼻っ面を翳めるつもりで90度コーナーをクリアする。母校の前を全開で通過し、2つめの信号を右折。反対車線の車の流れを読むのが難しい。狭い路地を横切る歩行者に気を付けながらNEC本社の脇をかすめて、日比谷通りでチェッカーとなる。
ここで僕は右折しアサメシの買い出しにam-pmへ寄る為だ。食道君は直進して、1ブロック先の会社に直行する...
かくして今回もゼッケン21番くれ〜じ選手がランキング1位の座を譲ることなく、目黒通りグランプリ、ダートバイククラスは幕を閉じた。
次回はビッグ ツイン クラスの模様をお伝えする。